梅原真デザイン事務所 - UMEBARA DESIGN OFFICE
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あうんアールグレイ

BAG

紅茶の国イギリスで一つ星を獲得。

小さな仕事が
ローカルからグローバルになっていく

池田

しまんと紅茶「あうんアールグレイ」が英国の高級食品小売組合が主催するコンテスト「グレートテイストアワード」で、2025年7月、一つ星を獲得しました。まさかまさかの展開です。まさにお山の一番星となりましたね。

梅原

そりゃ、紅茶の本場イギリスロンドンで一つ星やで。それだけでもうすごいやん。30年前、「しまんと緑茶」から始まり、「しまんと紅茶」が誕生し、そしてその四万十の和紅茶に馬路村農協が育てたベルガモットで香り付けしたアールグレイでの受賞。世界最大で最も信頼されている食品と飲料の認定制度で、500人を超える専門家審査員団がブラインドテイスティングして決めるらしい。今まで日本から和紅茶を出品して星を獲得した紅茶は9点あるけど、日本産のアールグレイで入賞したのは初めて。

池田

新聞ばっぐもですが、また一つ、梅原さんの手がけたものがローカルからグローバルになっていきました。

梅原

そうやな。小さな仕事がローカルからグローバルになっていく。勝手にその通りになる。でも、新聞ばっぐも今回の紅茶にしても、その始まりからすれば、ここまで来るのに30年以上かかっていますけどね。新聞ばっぐは最初からパリ、ニューヨーク、アフリカに広げたいとと想定していたので、ニューヨークに行ってから10-15年のうちにパリでも実現した。今回、また一つ、ローカルの田舎がグローバルに行っちゃったわけですけど、デザインをする時、「こうありたいという願い」が一つの商品にあって、ぼくの中ではロンドンまで達成するようなイメージがあった。

池田

紅茶のパッケージデザインからも、梅原さんのその願いが可視化できるような感じです。イギリス王室に殴り込みをかけるような紋章。ただし、英国はライオンとユニコーン、こちらは山のイノシシですけど(笑)。

梅原

向かいイノシシの紋章や。小さな島国日本のさらに小さな小さな四国の中山間の1点と1点が向かい合って生まれたコラボ商品ですからね。カッコええのは田舎に似合わん。だから、どんくさくデザインする。そこがミソ。いわゆるボクの一つの方向性、デザイン手法でもあるんやけど。そんなどんくさい田舎なのに洒落たアールグレイ紅茶やで。しかもおいしい。こういうギャップやインパクトもデザインする。しかも今回、紅茶の本場英国のお墨付きまで貰えた。さらに驚きは大きい。

池田

そもそも、あうんアールグレイは、どういうプロセスで地域商社の「四万十ドラマ」と「馬路村農協」、2つのマチとムラがコラボすることになったんですか。

梅原

2019年ごろだったかな。柚子の村として全国に知られる馬路村農協の当時組合長だった東谷望史さんから、四万十ドラマの畦地くんに「ベルガモットはある、紅茶はないか」と相談を受けたのがきっかけ。広井生産茶組合の岡峯さんとも旧知の間柄だし、馬路村農協とボクは「ゆずの村」という柚子ポン酢のデザインを頼まれて以来の古い付き合いでもある。それぞれお互いに「頼む」「分かった」のあうんの呼吸で製品化した。だから「あうんアールグレイ」。

はじまりは
じつは茶どころ、しまんと緑茶

池田

この紅茶の茶葉となる「しまんと緑茶」も、梅原さんの村おこしではなく、“村おこり”から始まった。神祭(じんさい)と呼ばれる地域のめでたいおまつりの席で、広井茶生産組合の岡峯久雄さんと酒を飲みながら「お前ら、ええ加減にせえよ。自分の茶を作れ!」と怒ったというお話は、もはや語り草です(笑)。

       
梅原

それこそ30年以上も昔の話や。その当時、ここのお茶は100% 、静岡に送られていた。「えっ、自分らのお茶もないの? 95%を静岡に送って、5%で自分らのお茶を作る研究はできんのか」と。四万十だけでなく、高知は昔から茶どころが多く、全国の茶どころから「土佐茶なしではお茶ができない」と言われるほどで、だからずっと混ぜられるお茶だった。四万十の茶はこんなにうまいのに、自分らのプライドがないことに腹が立ったんよ。でも、その“村おこり”から岡峯さんから四万十茶でつくるペットボトルのデザインの仕事を頼まれるまで10年もかかったんやで。

池田

それが「じつは茶所、四万十、チャチャチャ」

梅原

まず、「しまんと緑茶」「しまんと焙じ茶」から始まって、「しまんと紅茶」へと広がっていった。2005年の冬だったと思うけど、製茶工場で岡峯さんら農家の人と茶飲み話をしていた時に「40年前はこのあたりで紅茶を作りよったぜ」という話を聞いた。えっ、1965年ごろまで、この山奥でハイカラな紅茶を!? ものすごく違和感があったし、衝撃的だった。アタマにバチッとスイッチが入って「それって面白いやんか、もう一度、復活できん?」と。緑茶も紅茶も製法が違うだけで同じ茶葉から作るんやからね。

池田

しかし、なぜ、こんな山奥で紅茶を作っていたんでしょう。

梅原

「高知県茶業百年の歩み」という資料によると、高知で紅茶づくりが始まったのは明治10年(1877年)しかも「日本の紅茶発祥の地」だった。日本の紅茶の父と呼ばれる多田元吉さんという内務省の勧農局のお役人がインドで学んできて、帰国後すぐに国の命令で紅茶の工場を作ったのが高知県。高知は自生している山茶が多かったから「高知で」ということになったらしい。その最初の工場があったのは、うちの事務所から車で20分ほどの安丸というところ。そこから各地に広がったというわけ。四万十でも60年ぐらい前までは作られていたけれど、昭和46年(1971年)に輸入自由化となって安価なセイロン紅茶に押し出されて衰退した。

池田

農家が経済の論理、国の農業政策に振り回されるのは昔も今も変わりませんね。

梅原

茶に限らず、そういう集落が日本国中にある。四万十の栗だって、ちょっと言い過ぎかもしれないけれど、ボクが荒れた栗林を見てオーガニックや ! と言わなかったら、復活せずにあれで消えていたと思う。中国産に押され、廃れる。その繰り返しだった。農業政策は全部失敗やん。そういう意味では、日本は自分たちのオリジナルの価値観でものを作り上げるエリアではないようになっている。復活するというよりも復活しないのが前提や。だから、いざ紅茶を復活させようにも、昔のことで作り方が分からない。四万十ドラマの畦地くんが、金沢市で地紅茶づくりのアドバイザーをしている和紅茶プロデューサーの赤須治郎さんにお願いして製法を習うことになった。そこから「しまんと紅茶shimantoRED」と広がっていったわけ。2007年、40年前の味で新発売となったんやけど、味がええんよ。味と香りのバランスを決めるのは赤須さんのプロデュース力。今回のコンクールへのエントリーも赤須さんの提案です。

池田

その赤須さんによると、東京でカフェをやっている人が、これいいですねとお店で出すために選んでくれたり、予想していなかった人が評価して買ってくれるので、もしかしたらコンクールに出してもいけるんじゃないかと思い始めたと言っていました。

梅原

しまんと茶は結構うまいんよ。四万十の茶畑は「ヤブキタ」という品種の茶葉が中心。お茶には「香甘苦渋」の4つの味に振り分けられてブレンドされていて、四万十のヤブキタは山茶に近く、渋みが強い。四万十川の岸辺の茶畑は山全体が紅葉樹で、その紅葉樹の落ち葉が自然の堆肥となっているから土壌が力強く、その土地のチカラが味になる。その渋さというのが紅茶に合うてるんじゃないかと、ボクは素人ながらそう思う。しっかりとしたボディーのある紅茶だから「うまじベルガモット」の華やかな香りをつけてもどちらかが突出しているわけでもなく、よい味と香りのバランスになる。今は年間10トンの茶葉のうち、二番茶葉約600キロを使って紅茶作っていて、2023年からは無農薬栽培の茶葉を使っています。無農薬も茶農家の高齢化で消毒をするのが大変になってきたから自然に無農薬栽培になってきた。後継者のいない茶農家の切実な事情だけど笑える。今後は、さらに香り高い一番茶を使った紅茶づくりにも取り込んでいく。

茶葉とベルガモット
どちらも評価が高い理由

池田

コンクールでも、そのボディーのある紅茶とベルガモット本来の香りが高く評価されたみたいですね。ベルガモットの香りが全然違う、個性的だと。

梅原

「黄金色の紅茶を生む魅力的なリーフ」とか、ミルクを入れて飲むと「ベルガモット本来の香りとの調和が楽しめる」と高評価だった。これはボクも知らなかったんだけど、ベルガモットエッセンスは価格が結構高いので、市販されているアールグレイに使われているベルガモットは、ほかのカンキツを混ぜて使っているらしい。けれど、こっちは純粋にベルガモット100%のエッセンシャルオイルだけやからね。

       
池田

柚子と同じかんきつ類とはいえ、その馬路村がベルガモットの生産を始めたのはなぜなんですかね。

梅原

馬路村の「ゆずの森研究室」の沢村正義先生がイタリア西南部のカラブリア州から正規ルートでベルガモットの苗を輸入したのがきっかけ。検疫に2ー3年もかけて。本格的に栽培を始めたのは2013年ごろから。いわゆる接木での栽培ではない。沢村先生は高知大学名誉教授でかんきつのスペシャリスト。主力のゆず以外にもう一つ素材があったほうがよいというアイドバイス。最初は馬路村で栽培を始めたけど、山間部ではうまく育たず、農協職員さんの実家である室戸市吉良川町で栽培するようになった。俺もその畑を見に行ったけど、太平洋を望む日当たり抜群の畑で気候的にイタリアに似いちゅう。それにほら、土佐人はラテン系の気質やん(笑)。今、吉良川にで精油のための果皮からベルガモットオイルを抽出しているけれど、この室戸の日照の長さが深みのある上品な香りを生んでいるんやな。四万十の茶葉にこの精油を混ぜて香りづけしてアールグレイになる。

池田

梅原さんは、食品のデザインが多く、いわゆる「おいしいデ」です。単にパッケージのデザインだけではなく、最初から、味のデザインから始まっていきます。

梅原

その商品の誠実さとおいしさはイコールに近い。だから冷静に「おいしいってなんだろう」と考える目線が必要。おいしさは安心でもあるからできるだけ無農薬、無添加とか、使う素材からも関わることが多い。この紅茶もテイスティングを何度も繰り返した。このプロセスもデザイン。岡峯さんが持ってきた茶葉に、馬路村のベルガモットの乾燥させた果皮を持ってきて缶の中に入れて1週間置いたやつ、1日置いたやつ、数時間置いたやつ、全然味が違う。ベルガモットは皮は使うけど中身は使わん。そういうことも1から知ってデザインするのと、知らないのとでは思考の厚みも違うんちゃう?

二村で一品

池田

梅原さんは、このコラボをきっかけに「二村で一品」という新たな考え方をアップデートしました。

梅原

今までずっと地域のことをやってきて、その地域の個性を引き出していくのが自分の考え方のデザインの方向性だった。あんたらの個性はなんやねん、その土地のもんでやりなさいと、その土地にばかり集中していた。けれど、地域に焦点を当てすぎていて、それがブロックにもなっている、単体になっている。そう気づかせてくれたのは、このコラボ紅茶のおかげ。お茶と柚子、お互いに独自のブランドを持っているからできたことでもあるけれど、むしろ、はっ ! とする。こっちも自分の土地の個性なんだけど、あっちも土地の個性なので、AとBで一緒にやろう。それを一つの商品にする。“ドッキングするのもありだな”ということを勉強する商品になった。それぞれの土地の強みと強みを活かした「二村で一品」。

池田

1980年ごろの「一村一品」運動を思い出します。

梅原

大分県の平松知事が、村々が自分の商品を作りなさいと提唱したのが「一村一品」運動。当時、ボクは「ああ、一村一品運動、ええな。ええコンセプトやな」と思っていた。で、ボクも馬路村の村おこし商品として、当時、柚子ポン酢をデザインして、西武百貨店の101村展で金賞をもらった。それで売り上げも伸びて、今でも人気のロングセラー商品。一村一品の成功品でもあった。でも一方で、その功罪もあって、あちらこちらのマチやムラから出てきたのはみんな、ゆずジャム!ろくな商品が出来んかった。大分県はしいたけ。カボスというのは商品ではなく、ブランディングになっちゃった。あのエリアのカボスというふうに。「一村一品」はええとこ、悪いことがあった。

池田

つまり、概念を変えにゃいかんと。

梅原

ボクはある意味で「二村で一品」と、わざと言っている。こういう概念は今まで意外となかった。空から見たら行政区分を点線で描いているわけでもないんだからさ。これからは一村にこだわらず、人間のエネルギーと土地のエネルギーが合うところ同士がやればええ。組織でも自分たちのエネルギーがあれば呼吸が合うやんか、ココロザシが合うやんか。AとBのそのエネルギーの集約が新しい何かを作る。 ここでまたボヤいちゃうけど、そんなん県庁とか役所にはないやん。3、4年で担当が変わる。そうやり方だと、やる気が出るわけない。ココロザシを持っていたとしても無くなっちゃうもんやなというのは、現実にいろいろ見たり感じたりすることが多い。それはエネルギーがない、やらなくてもいい人たちが集団でいるから始まらんのよ。「しまんと流域農業」だって、行政がやるエネルギーがないから、ボク一人でやっている。そうやねと言うてるだけでは何も始まらん。人の心がスポイルされる。「二村で一品」には、ボクのそういう皮肉も込められている。

池田

以前、しまんと地栗が足りなくなった時、「お助け地栗」という驚きの手法で切り抜けた。そのあたりから「二村で一品」という考え方のデザインの気配があったのかも。

梅原

そんなこともあったな。地栗の地、地元ってどこまでのエリアやねん、良心範囲でやろうとやってきたけど、地元で足りなくなったら大きく解釈を変えてやる。自衛隊は合憲ですーみたいにさ(笑)。でも誠実さは大事だから、どこの栗を借りてきたかは隠さず、正直に表明して信頼してもらう。デザインは心理学だから、考え方やネーミングのチカラは大きい。
もちろん、「あうんアールグレイ」もそう。エネルギーを発している2点の土地のエネルギーが合わさって、阿吽の呼吸で出来上がった。そのプロセスにデザインがあり、新しい価値を作るエネルギーがあるわけよ。でも「阿吽」と漢字で商標登録している会社があって、今は小さな「と」を入れて、「あとうんアールグレイ」でペットボトルも作っているところ。残念ではあるけれど、ボクらの阿吽の呼吸は変わらん。

池田

ちなみに、この食のコンテストへの挑戦はこれからも?

梅原

今回の賞は2024年度の紅茶の評価。だから今年も出品するようです。3-5年は連続受賞したいと大きく夢を持っているみたい。3年連続で三つ星を獲得したら、イギリス王室に献上されるんやて。頑張らなあかん。

デザインする時、
こうありたいという願いを込めた。
それはロンドンまで達成するイメージ。